大判例

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東京地方裁判所 昭和55年(合わ)155号 判決

主文

被告人を無期懲役に処する。

未決勾留日数中八〇〇日を右刑に算入する。

訴訟費用は、第三回公判期日に証人宮澤宗平、同原田祥二に支給した分及び昭和五五年一二月二六日に証人千葉紀千郎に支給した分を除き、被告人の負担とする。

理由

(犯行に至る経緯)

被告人は、秋田県立秋田高等学校を卒業した後、昭和三九年に東洋大学経済学部に入学し、昭和四二年ころから、いわゆる新左翼の運動に関心を寄せ始め、古堅千賀子、栗橋猛夫、宮本幸枝、亀川行子らと読書会や勉強会を持つようになり、その仲間や法政大学に入学して上京していた弟の鎌田克己、同大学の学園紛争の際に知り合った西巻幸作らと共に大学や街頭における集会、示威運動に参加し、昭和四五年秋ころからは、光文社の労働争議を支援したり、監物今朝雄、梶原譲二、越後美登里ら新劇人反戦グループのメンバーや西山正一と共に軍需産業に反対する反軍産闘争に参画するなどするうち、次第に武装闘争を唱道する赤軍派の世界一国同時革命論や前段階武装蜂起論に共鳴し、被告人の前に立ちはだかる「機動隊政治」を打破し、暴力革命の気運を醸成するには、それまでに行ったことのある火炎びん闘争などでは限界があると考え、更に強力な手段を用いる武装闘争を志向するようになった。

かくして、被告人は、昭和四六年春、西巻、鎌田克己らが新潟県で盗んできた黒色火薬の一部を受け取り、これをそのころから継続的に接触のあった赤軍派幹部の青砥幹夫に手渡して、黒色火薬の性能を知ろうとし、同年五月ころには、西巻を通じて知り合った菊池廣と秋田市に行って鎌田克己と共に黒色火薬の燃焼実験をし、更に、同年六月ころ、再び秋田市に行って、鎌田克己から被告人らと一緒に活動するよう説得されていた秋田大学鉱山学部学生熊谷信幹及びその友人の高橋進に会い、右両名及び鎌田克己と共に、火薬類について専門的知識を持っている熊谷が作った黒色火薬入りの鉄パイプ爆弾の爆発実験をし、熊谷には時限装置の開発を依頼するなどして、武装闘争に用いる爆弾の製造を模索していた。

その後、被告人は、西巻、監物、西山、宮本、亀川、越後ら在京のグループと秋田にいるグループである熊谷、鎌田克己及び高橋とを合流させるとともに爆弾の爆発実験を行う目的で、同年八月下旬、秋田県鳥海山麓近くの小砂川海岸において、右の人々を集めて合宿を行い、その際、熊谷が爆発物について講義をしたり、鳥海山麓で熊谷が作った黒色火薬入りの鉄パイプ爆弾等の爆発実験をしたりして、爆弾を用いた武装闘争を行うべく準備を進め、また、被告人のグループを赤軍派に勧誘する目的でこの合宿に現れた青砥から、赤軍派が成田市の新東京国際空港の建設阻止をもくろむ三里塚闘争において、同年九月中旬に、三里塚の現地や東京都内で、機動隊や警察施設に爆弾を投擲して警察官らを殲滅するという黄河作戦(被告人らはこれを紅河作戦と理解していた。以下「黄河作戦」という。)を行う予定であると聞かされるとともに、この作戦に参加するように求められ、被告人らとしては、赤軍派に加入する意思はなかったものの、黄河作戦における爆弾闘争についてはこれを同調する気持を抱いた。

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一  熊谷、西巻、監物及び青砥と共謀のうえ、赤軍派が黄河作戦で警察官を殺傷するために用いる爆弾であることを認識しながら、これを製造しようと企て、治安を妨げかつ人の身体財産を害する目的をもって、昭和四六年九月一〇日前後ころ、二日間にわたり、被告人及び右四名が東京都大田区《番地省略》都営Aアパート一六号棟一〇一二号室の当時の古堅方に集まり、青砥が中心となって鉄パイプ爆弾二個(鉄パイプ二本にそれぞれダイナマイト約六〇グラム、釘片を充填し、これに起爆装置として導火線、雷管等を装置できるようにしたもの)を作り、もって爆発物を製造し、

第二  一 熊谷及び西巻と共謀のうえ、黄河作戦に呼応して、警視庁杉並警察署高円寺駅前派出所に爆弾を仕掛けて爆発させることとし、そのための爆弾を製造しようり企て、治安を妨げかつ人の身体財産を害する目的をもって、同月一六日、被告人及び右二名が同区《番地省略》B荘の当時の菊地方居室に集まり、熊谷及び西巻が中心となって鉄パイプ爆弾一個(鉄パイプ一本にダイナマイト約七〇グラムを充填し、これに起爆装置として電気雷管を結合した時限装置付のもの)を作り、もって爆発物を製造し、

二 熊谷、西巻及び監物と共謀のうえ、右一の製造にかかる爆弾を前記派出所に仕掛けて爆発させようと企て、治安を妨げかつ人の身体財産を害する目的をもって、同月一七日午後九時ころ、右三名が同都杉並区高円寺北二丁目五番所在の同派出所付近に赴き、西巻及び監物が見張りをする間、熊谷が右一の製造にかかる鉄パイプ爆弾一個を同派出所休憩室西側の窓下側壁に近接した地面の上に置き、翌一八日午前二時五五分ころ同所においてこれを爆発させ、もって爆発物を使用し、

第三  熊谷、鎌田克己、監物及び高橋と共謀のうえ、今後更に警察施設等に対する爆弾闘争を続けるためにダイナマイトを入手しようと企て、

一  同年一〇月上旬ころの午後一〇時ころ、秋田市手形大松沢九五番地株式会社三田商店秋田支店火薬庫において、右四名が同支店長奈良武男管理にかかる三号桐ダイナマイト(一本一〇〇グラムのもの)二二五本(時価合計約五八〇〇円相当)を窃取し、

二  治安を妨げかつ人の身体財産を害する目的をもって、右一の窃取の日からその翌日までの間、同市《番地省略》Cアパートの当時の高橋方居室において、右一の窃取にかかるダイナマイト二二五本を隠匿し、もって爆発物を所持し、

第四  一 熊谷、西巻、高橋及び菊池と共謀のうえ、同月二一日の国際反戦デーにおける闘争に呼応して、都内の警察施設合計四か所に爆弾を仕掛けて一斉に爆発させることとし、そのための爆弾を製造しようと企て、治安を妨げかつ人の身体財産を害する目的をもって、同月二三日、被告人及び右四名が前記菊池方居室に集まり、熊谷及び西巻が中心となって、(1)ダイナマイトを用いた爆弾一個(一本一〇〇グラムのダイナマイト一〇本を束ねて粘土で覆い、これに起爆装置として電気雷管を結合した時限装置付のもの)(2)鉄パイプ爆弾一個(鉄パイプ一本にダイナマイト約一〇〇グラムを充填し、これに起爆装置として電気雷管を結合した時限装置付のもの)(3)鉄パイプ爆弾一個(鉄パイプ三本にダイナマイト合計約三〇〇グラムを充填し、これを一つに束ね、うち一本の鉄パイプに起爆装置として電気雷管を結合した時限装置付のもの)(4)鉄パイプ爆弾一個(鉄パイプ一本にダイナマイト約一〇〇グラムを充填し、これに起爆装置として電気雷管を結合した時限装置付のもの)を作り、もって爆発物を製造し、

二 熊谷及び菊池と共謀のうえ、右一の(1)及びの製造にかかる爆弾をそれぞれ警視庁本富士警察署弥生町派出所及び警視庁中野警察署に仕掛けて爆発させようと企て、治安を妨げかつ人の身体財産を害する目的をもって、

1  同日午後七時前ころ、右両名が同都文京区弥生一丁目一番一号東京大学農学部構内に赴き、コンクリート塀を隔ててその外側に接するように建てられた同号所在の前記弥生町派出所の東北側裏にあたる場所において、菊池が両手で熊谷の両足を支えて持ち上げ、熊谷が右一の(1)の製造にかかるダイナマイトを用いた爆弾一個をコンクリート塀越しに同派出所屋上に置き、翌二四日午前二時五分ころ同所においてこれを爆発させ、もって爆発物を使用し、

2  同月二三日午後八時ころ、右両名が同都中野区中央二丁目四七番二号所在の前記中野警察署の東側に隣接する空地に赴き、熊谷が右一の(2)の製造にかかる鉄パイプ爆弾一個をコンクリート塀越しに同警察署会計厚生係室東側の遺失物自転車置場に投げ入れ、翌二四日午前二時ころ同所においてこれを爆発させ、もって爆発物を使用し、

三 西巻及び高橋と共謀のうえ、右一の(3)の製造にかかる鉄パイプ爆弾を警視庁荻窪警察署(状況によっては他の警察施設)に仕掛けて爆発させようと企て、治安を妨げかつ人の身体財産を害する目的をもって、同月二三日午後一〇時ころ、右両名が同都杉並区桃井一丁目一番一号警視庁荻窪警察署四面道派出所付近に赴き、西巻が見張りをする間、高橋が右一の(3)の製造にかかる鉄パイプ爆弾一個を起爆装置を作動させたうえ同派出所裏側の壁に接着した便所汲取用便そうの上に置き、もって爆発物を使用し、

四 監物及び梶原と共謀のうえ、右一の(4)の製造にかかる鉄パイプ爆弾を警視庁中野警察署中野駅前派出所(状況によっては他の警察施設)に仕掛けて爆発させようと企て、治安を妨げかつ人の身体財産を害する目的をもって、同日午後九時三〇分ころ、右両名が同都渋谷区本町三丁目一一番二号警視庁代々木警察署清水橋派出所付近に赴き、梶原が見張りをする間、監物が右一の(4)の製造にかかる鉄パイプ爆弾一個を起爆装置を作動させたうえ同派出所の物置部分に近接した地面の上に置き、もって爆発物を使用し、

第五  熊谷、鎌田克己、監物、高橋及び梶原と共謀のうえ、同年一一月一九日に予定されている沖縄返還協定批准阻止闘争に呼応して、仙台市の国見にあるアメリカ合衆国軍隊通信施設の仙台国見通信所に爆弾を仕掛けて爆発させようと企て、治安を妨げかつ人の財産を害する目的をもって、同月二一日午後一〇時ころ、熊谷、監物及び梶原が仙台市荒巻字国見東山一二番地所在の同通信所付近に赴き、監物及び梶原が見張りをする間、熊谷がダイナマイトを用いた爆弾一個(ダイナマイト約三キログラムを束ね、これに起爆装置として電気雷管を結合した時限装置付のもの)を同通信所電源室東側にある高圧受電盤コンクリート土台付近に置き、翌二二日早朝同所においてこれを爆発させ、もって爆発物を使用し、

第六  一 熊谷、西巻及び沼知義孝(西山から紹介されて同年一一月初め被告人のグループに入った者)と共謀のうえ、爆弾事件の頻発によって厳重になっていた警察の警備態勢を打破して武装闘争派の健在と力を誇示するため、クリスマス・イヴの夕方に警視庁四谷警察署追分派出所に爆弾を仕掛けて爆発させることとし、そのための爆弾を製造しようと企て、治安を妨げかつ人の身体財産を害する目的をもって、同年一二月二四日、被告人及び右三名が前記菊池方居室に集まり、熊谷及び西巻が中心となって、クリスマス・ツリーに偽装した爆弾一個(鉄製ニップルにダイナマイトを充填し、その周囲をダイナマイトで包んだもの(ダイナマイトの量は合計約四〇〇グラム)を植木鉢の中に入れ、その間隙にアンホ(硝安油剤爆薬)を詰め、その上に黒色火薬を敷き詰め、起爆装置として電気雷管を結合した時限装置付のもの)を作り、もって爆発物を製造し、

二 熊谷、西巻及び沼知と共謀のうえ、右一の製造にかかる爆弾を前記派出所に仕掛けて爆発させようと企て、右爆弾を爆発させた際近くに警察官らがいた場合にはその者を死亡させるに至るかもしれないと認識しながら、治安を妨げかつ人の身体財産を害する目的をもって、同日午後六時三〇分ころ、被告人、西巻及び沼知が同都新宿区三丁目六番地所在の同派出所付近に赴き、被告人及び沼知が見張りをする間、西巻が右一の製造にかかる爆弾を同派出所南東側の壁に近接した歩道上に置き、同日午後七時一〇分ころ同所においてこれを爆発させ、もって爆発物を使用するとともに、右爆発により、別紙被害者等一覧表記載のとおり、同派出所に勤務中の警視庁巡査長大野文次及び同派出所付近を通行中の小野良則ほか五名に対し、それぞれ加療六年六か月以上ないし八日間を要する爆傷等の傷害を負わせたが、同人らを殺害するに至らなかった

ものである。

(証拠の標目)《省略》

第一爆発物取締罰則の合憲性

弁護人は、(1)爆発物取締罰則は大日本帝国憲法(以下「旧憲法」という。)制定前に太政官布告として制定された勅令であり、その後旧憲法下においても日本国憲法(以下「現憲法」又は「憲法」という。)下においても議会によって法律としての形式が付与された事実はないから、憲法九八条一項により法律としての形式的有効性を有しないし、仮に命令の規定する内容が憲法の条項に反しない限り現憲法下でも効力を有するとの見解をとるとしても、同罰則は、その成立過程、旧憲法下における運用実態等に照らすと、憲法一一条、一二条、一三条、一四条、一九条、二一条、三一条、三六条等に反する内容を規定した勅令であって、その全体が憲法九八条一項に反するものであり、(2)同罰則は、各条項に共通する基本的構成要件である「治安を妨げる目的」という概念が極めて漠然としているばかりでなく、各条項の刑罰が苛酷であり、また、同罰則三条以下の各規定は、近代刑法の基本原理に相反するものであって、結局、同罰則は、憲法一一条、一二条、一三条、一四条、一九条、二一条、三一条、三六条、三八条等に反する違憲無効なものである旨主張する。

しかし、爆発物取締罰則が旧憲法下において旧憲法上の法律と同様の効力を有していたものであり、現憲法施行後の今日においてもなお法律としての効力を有しているものであることは、最高裁判所の判例の示すとおりであり(最高裁第二小法廷昭和三四年七月三日判決・刑集一三巻七号一〇七五頁、最高裁第二小法廷昭和五〇年四月一八日判決・刑集二九巻四号一四八頁等)、また、同罰則に定める「治安を妨げる目的」という概念が不明確なものではなく、その定める刑が残虐な刑罰といえないことも最高裁判所の判例の示すとおりであり(最高裁第一小法廷昭和四七年三月九日判決・刑集二六巻二号一五一頁等)、その他、弁護人の主張を検討しても、同罰則並びに同罰則一条及び三条が弁護人指摘の憲法の各条項に違反するものとは認められない(なお、同罰則二条及び四条以下の規定については、本件とは直接関係のない条文であるから、憲法適否の判断を示さない。)。

よって、弁護人の前記主張は採用しない。

第二爆発物取締罰則一条及び三条の身体加害目的の有無等

爆発物取締罰則一条の罪(以下「人ノ身体ヲ害セントスルノ目的ヲ以テ」する場合のみに限定する。)及び三条の罪(以下、右の目的をもってする製造罪及び所持罪のみに限定する。)は目的犯であるから、それらの罪が成立するためには、行為者において、爆発物を使用、製造又は所持するという認識を持っているだけでは足りず、ほかに「人ノ身体ヲ害セントスルノ目的」(以下「身体加害目的」という。)を持っていなければならないことはいうまでもないが、身体加害目的があるといえるためには、弁護人のいうような積極的意図を持っている必要はなく、当該爆発物の爆発により人の身体が害されるという結果の発生を認識しながら、結果が発生してもよいと考えて行為に出る意思があれば足りると解される。身体加害目的は、刑法及び火薬類取締法において違法とされている爆発物の使用等について、爆発物という取締の対象物の性質上、行為者に右の目的があるときには行為の危険性、違法性が増大するところから、そのような行為を特に重く処罰するため構成要件の要素とされているのであるが、行為に出るか否かを決定する際に行為者において人の身体が害されるか否かを考慮に入れ、これを肯定して行為に出る以上、積極的な意図に至らない右のような意思でも、行為の危険性、違法性を増大させるのに十分であり、身体加害目的に含まれると解してよい実質を具えていると考えられるからである。そして、右のような内容の目的は、人の身体が害されるという事実についての認識が確定的であろうと未必的であろうといずれの場合でも形成され得るのであるが、右の認識が未必的な場合であっても、結局はその事実の発生を認識していることに変わりはなく、かつまた、事実発生の認識が確定的か未必的かはその事実の発生を目的とする行為の危険性、違法性の大小に直接結びつくものではないから、未必的認識に基づく目的と確定的認識に基づく目的とを区別すべき理由はないというべきである。

ところで、人を殺傷する能力を有する爆発物を警察官の現在する警察施設に投擲して爆発させる場合はもとより、警察官の常駐する警察施設のそばに時限式爆弾として仕掛けて後刻爆発をさせる場合でも、爆発時に人が爆発物の近くにいて爆発の被害を受ける可能性は常にあるというべきであり、爆発時刻を深夜にセットした場合も右の可能性が少なくなるだけで同様と考えられる。従って、そのような状況のもとで爆発物を爆発させることの認識があれば、人の身体が害されるという事実について未必的な認識があるということができる。

以上の見解に立って、判示各関係事実につき、被告人に身体加害目的を認めた理由を順次説明する。

一  判示第一の製造について

本件の製造にかかる爆弾二個は、判示のとおり、いずれもダイナマイト約六〇グラムを充填した手投式爆弾であるところ、被告人は、判示のとおり、小砂川海岸の合宿において、青砥から、赤軍派が三里塚闘争で手投げ式爆弾を機動隊や警察施設に投擲して警察官を殲滅するという黄河作戦を行う旨聞かされた際、これに同調する気持を抱いていたうえ、《証拠省略》によれば、被告人は、前記古堅方において爆弾を製造する際、これを黄河作戦で用いる意図を持っていた青砥から、再び黄河作戦について説明を受けたほか、「交番に投げこんで来るんだ。」とか「使わない爆弾というものは作るべきではないんだ。」と言われた事実が認められる。また、《証拠省略》によれば、黄河作戦が弁護人の主張するような現実性・具体性のない架空の作戦でなかったことは明らかであるばかりでなく、被告人、共犯者の捜査段階における供述をみても、被告人らが黄河作戦を架空のものと思っていた様子は窺われない。これらの事実に、青砥から黄河作戦のための爆弾を一緒に作ろうと言われて同意した、作った爆弾は青砥の方で交番に投げ込んで警察官を殺傷することに使うつもりであることは分かっていた旨の被告人の捜査段階における供述を加えて考察すると、たとえ被告人らが爆弾製造の技術を習得する目的を併せ持っていたとしても、被告人は、青砥が黄河作戦で警察官の殺傷を主眼として本件爆弾を用いること、すなわち、警察官の殺傷の結果が生じることを少なくとも未必的に認識し、かつ結果が発生してもよいと考えて本件爆弾の製造行為に出たものと認めることができる。そうすると、被告人には、本件について身体加害目的があったというべきである。

二  判示第二の製造と使用について

本件の製造・使用にかかる爆弾は、判示のとおり、ダイナマイト約七〇グラムを鉄パイプに充填した時限式爆弾であって、被告人らは、これを警視庁杉並警察署高円寺駅前派出所の側壁に近接した地面の上に置いたものであるところ、《証拠省略》によって認められる爆発結果に照らせば、本件爆弾が人を殺傷する能力を有するものであることは明らかであるうえ、本件爆弾が右のような能力を有することや、同派出所が無人でないこと、更には本件爆弾を右のような方法で仕掛けることについて被告人が認識していた事実は、被告人の捜査段階における供述及び当公判廷における供述からも認められるところである。これらの事実に、被告人らの判示闘争目的や、本件爆弾の爆発により人を殺傷したりすることがあることは当然分かっていたが、警察官の殺傷ということが生じても闘争をやる以上しようがないという気持で実行した旨の被告人の捜査段階における供述を加えて考察すると、被告人は、本件爆弾の爆発により警察官が殺傷されるという結果の生じることを未必的に認識し、かつ結果が発生してもよいと考えて本件爆弾の製造・使用行為に出たものと認めることができる。そうすると、被告人には、本件についても身体加害目的があったというべきである。

三  判示第三の二の所持について

本件ダイナマイトは、判示のとおり、判示第三の一の窃盗により入手したものであるが、被告人は、捜査段階において、右窃盗に及んだ理由として、これからも警察施設等を爆破する爆弾闘争を続けるためであった旨供述し、共犯者である熊谷の捜査段階及び当公判廷における供述、鎌田克己の当公判廷における供述、高橋の捜査段階における供述も同趣旨のことを述べている。また、《証拠省略》によれば、本件ダイナマイトは、被告人らが入手してからわずか半月後にまず判示第四の犯行に用いられているのである。これらの事実に、窃取したダイナマイトは警察施設の爆破に使うつもりであり、その過程において警察官が爆弾の爆破に巻き込まれることがあるかもしれないことは分かっていたが、闘争を進めるうえで仕方がないという気持でいた旨の被告人の捜査段階における供述を加えて考察すると、被告人は、既に実行した判示第二の犯行のような警察官の現在する警察施設の爆破を当面の具体的目標として念頭に置き、窃取して所持している本件ダイナマイトをそのような闘争で使えば警察官の殺傷という結果の起こり得ることを未必的に認識し、かつ結果が発生してもよいと考えて本件ダイナマイトの所持行為に出たものと認めることができる。そうすると、被告人には、本件について身体加害目的があったといわなければならない。

四  判示第四の製造と使用について

まず、本件各爆弾の威力についてみると、判示のとおり、第四の一の(1)の製造(第四の二の1の使用)にかかる爆弾は、一本一〇〇グラムのダイナマイト一〇本を一つに束ねた時限式爆弾であり、第四の一の(2)の製造(第四の二の2の使用)及び第四の一の(4)の製造(第四の四の使用)にかかる爆弾二個は、いずれもダイナマイト約一〇〇グラムを鉄パイプに充填した時限式爆弾であり、第四の一の(3)の製造(第四の三の使用)にかかる爆弾は、合計約三〇〇グラムのダイナマイトを三本の鉄パイプに充填してこれを一つに束ねた時限式爆弾であって、これらの爆弾四個は、いずれも判示第二の爆弾と同程度の又はこれをはるかに上まわる威力を有するものである。そして、被告人が、本件各爆弾がいずれも人を殺傷する能力を有するものであることを認識していたことは、被告人の捜査段階における供述からも明らかである。

他方、本件爆弾を仕掛けた場所や方法についてみると、判示のとおり、第四の一の(1)の爆弾は、警視庁本富士警察署弥生町派出所(以下「弥生町派出所」という。)の屋上に置かれ、第四の一の(2)の爆弾は、警視庁中野警察署(以下「中野署」という。)の建物の脇の遺失物自転車置場に投げ込まれ、第四の一の(3)の爆弾は、警視庁荻窪警察署四面道派出所(以下「四面道派出所」という。)の裏側の便所汲取用便そうの上に置かれ、第四の一の(4)の爆弾は、警視庁代々木警察署清水橋派出所(以下「清水橋派出所)という。)に近接した地面の上に置かれたものである。このうち、第四の一の(1)の爆弾については、《証拠省略》によって認められるとおり、被告人は、実行担当者の熊谷及び菊池が右爆弾を弥生町派出所に接するように建てられたコンクリート塀に引掛けて東京大学の構内の側につるすものと思っていたのであるから、これを仕掛ける方法の点において、被告人が当初認識していたところと実行担当者が実行したところとの間に齟齬があることになる。しかし、ダイナマイト一〇本を用いた爆弾の威力からすると、被告人が当初認識していた方法によっても実行担当者が現に実行した方法によっても、人を殺傷する可能性があることは容易に肯認でき、被告人が右の爆弾を右の可能性のある状況のもとで爆発させることについて認識していた点においては変わりがないものということができる。次に、第四の一の(2)の爆弾については、実行担当者の熊谷及び菊池が中野署をねらって、すなわち同署に近接した場所に仕掛けることを被告人が認識していたことは、被告人が捜査段階及び当公判廷において自認しているとおりと認められる。更に、第四の一の(3)及び(4)の爆弾については、これを仕掛ける対象について、被告人が捜査段階において、実行担当者が現場で状況を判断し、場合によっては、各爆弾を当初決定された対象以外の警察施設に仕掛けてもよいこととしていた旨供述しているように、被告人としては、爆破の目標として、一応、弥生町派出所、中野署、警視庁荻窪警察署(以下「荻窪署」という。)及び警視庁中野警察署中野駅前派出所(以下「中野駅前派出所」という。)を考えていたものの、状況次第では実行担当者が右以外の同様の警察施設をねらって本件各爆弾を仕掛けることもあると予想していたものと認められる。従って、被告人には、西巻及び高橋、監物及び梶原がそれぞれ爆弾を仕掛ける予定であった荻窪署及び中野駅前派出所のみならず、これらに代えて他の同様の警察施設に近接した場所に前記認定のような威力を持つ判示第四の一の(3)及び(4)の爆弾を設置して爆発させることもあり得るという認識があったものと認めることができる。以上の事実に、被告人らの判示闘争目的や、本件各爆弾の爆発により警察官が殺傷される事態の起こり得ることは分かっていたが、闘争をやる以上しょうがないという気持で実行した旨の被告人の捜査段階における供述を加えて考察すると、被告人は、第四の一の(1)ないし(4)のいずれの爆弾についても、その爆発により警察官の殺傷という結果の発生することについて未必的に認識し、かつ結果が発生してもよいと考えて本件各爆弾の製造・使用行為に出たものと認めるのが相当である。そうすると、被告人には、本件各犯行につき、身体加害目的があったということができる。

五  判示第六の製造と使用について

本件の製造・使用にかかる爆弾は、判示のとおり、合計約四〇〇グラムのダイナマイトのほか、アンホや黒色火薬を用いた時限式爆弾であって、《証拠省略》などによって認められる爆発結果に照らしても、本件爆弾が人を殺傷する能力を有するものであることは明らかであるうえ、被告人が本件爆弾が右のような能力を有することを認識していたこともまた明らかである。そして、判示のとおり、被告人らは、右のような爆弾を繁華街の中にある警視庁四谷警察署追分派出所(以下「追分派出所」という。)の近くに置き、しかも、爆発時刻をかなりの人通りが予想されるクリスマス・イヴの午後七時一〇分ころとしたのである。これらの事実に、被告人らの判示闘争目的や、本件爆弾の爆発により警察官を殺してしまう事態が当然起こり得るものと考えたが、それはそれで宣伝効果もあると考えた旨の被告人の捜査段階における供述を加えて考察すると、被告人は、本件爆弾の爆発により警察官及び通行人を殺傷する事態の起こることを少なくとも未必的には認識しながら、警察官の殺傷についてはその結果が発生してもよいと考えて本件爆弾の製造・使用行為に出たものと認めることができる。

もっとも、被告人は、当公判廷において、当時の警察の警備状況や爆弾を置いた位置からみて、爆弾を置いた後直ちに追分派出所にいる警察官若しくは通行人によってこれが発見されるか、又は宮本のかける予告電話が警察に通報されることにより、爆弾が発見されて砂袋をかぶせられ、通行人らが避難させられるとともに、一五分位して現場に到着する爆発物処理班によって処理筒の中で爆発させられることになり、従って、人身に被害が及ぶということは全く予期していなかった旨弁解している。確かに、《証拠省略》によれば、被告人らが本件爆弾を置いた後、事前に被告人から依頼されていた宮本が朝日新聞首都部新宿分室に予告電話をかけ、爆弾を仕掛けた場所と爆発予定時刻を伝えたことが認められるから、被告人が当公判廷において供述するような事態の進展も被告人の念頭にあったことは否定し難い。しかし、《証拠省略》によって認められるとおり、実際には、爆発の予告が朝日新聞社から警察に通報されず、しかも、爆発直前まで爆弾が発見されずに爆発したのであり、このような現実に起こった事態の進展も、本件爆弾の形状、設置場所、新聞社にかけた予告電話が警察に通報される保証のないことなどからして、当然被告人の予測の範囲内にあったものと認めることができる。また、《証拠省略》によって認められるとおり、被告人らは、本件爆弾に偽装コードを施してこれが切断されてもなお爆発するように工作したうえ、爆弾を置いてから爆発するまでを三〇分ないし四〇分というかなり短かい時間にとどめ、更に、予定された爆発の日時場所は、既に述べたとおり、かなりの人混みが予想される状況であったことに鑑みると、仮に爆弾がすぐに発見されたにせよ、右のようなわずかな時間内に、被告人が期待したとおりにこれを爆発させるということは、容易でないことが明らかであり、安全に処理されないまま危険な状況のもとで爆発するということも、被告人が捜査段階において認めているように、被告人の予測の範囲内にあったものと認めることができる。従って、予告電話をすることにより被告人が当公判廷において供述するような事態の進展もあり得たという事実は、被告人が本件爆弾の爆発により警察官及び通行人を殺傷する事態の起こり得ることを認識し、かつ警察官についてはその殺傷を認容していたと認めることの妨げになるものではない。

このようにみてくると、被告人には、本件についても、身体加害目的があったことは明らかであり、また、本件爆弾の使用に際しては、被告人に警察官及び通行人に対する未必の殺意があったことも明らかである。

第三共同正犯の成否

一  判示第三の一の事実について

《証拠省略》によれば、被告人は、昭和四六年九月初旬ころから、爆弾闘争に用いるため、秋田市手形山の火薬庫からダイナマイトを入手することを検討していたが、判示第二の犯行に成功した後は、今後も爆弾闘争を続けようと考え、秋田市に戻っていた熊谷や鎌田克己が寒風山で入手したダイナマイトの量が少なかったところから、秋田のグループと連絡をとりつつ手形山の火薬庫からダイナマイトを盗むことを決め、同年一〇月上旬、この計画を実行すべく、監物を連れて秋田市内の前記高橋方に赴き、同所において、熊谷、鎌田克己、監物及び高橋と共にダイナマイトを盗む方法について相談をしたうえ、被告人が部屋に待機し、右四名が手形山に行って判示のとおりダイナマイト二二五本を窃取した事実が認められる。

右の事実に、自分はこの計画の指揮をとった旨の被告人の捜査段階における供述を加えて考察すると、被告人は、実行行為を担当しなかったものの、本件犯行に関与したことは明らかであり、それも、熊谷ら四名との間で謀議を遂げたうえ、共同意思のもとに本件を実現したのであるから、共同正犯としての刑責を免れないといわなければならない。

二  判示第四の二ないし四の事実について

《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。

昭和四六年一〇月中旬ころ、東京都中野区《番地省略》D内の亀川方において、被告人、熊谷、西巻、監物、高橋、菊池らが集まり、被告人が中心となって、同月二一日の国際反戦デーに向けて行う爆弾闘争について検討した結果、警察の警備のゆるむ同月二三日に都内数か所の警察施設に一斉に時限式爆弾を仕掛け、これらを同時に爆発させようという相談がまとまり、被告人及び菊池、西巻及び高橋、監物及び梶原がそれぞれ一組となって実行することに一応決まったが、爆破の対象とすべき警察施設については、それぞれ手分けして下見したうえ決めることとした。その後、右相談結果に基づいて、被告人、熊谷、西巻、監物、菊池らが適宜何か所かの警察施設の下見をしたうえ随時検討した結果、同月二三日最初の実行担当者が前記菊池方を出発するまでに、被告人と熊谷が交代すること、熊谷及び菊池が弥生町派出所と中野署に、西巻及び高橋が荻窪署に、監物及び梶原が中野駅前派出所に爆弾を仕掛けることが決まった。そして、判示のとおり、同日、熊谷及び西巻が中心となって爆弾四個を製造し、これらの爆弾を熊谷及び菊池が弥生町派出所と中野署に、西巻及び高橋が四面道派出所に、監物及び梶原が清水橋派出所に仕掛けた。被告人は、同日右六名が爆弾を持って出かける際、爆弾を仕掛けても仕掛けられなくても被告人に電話で連絡するように指示したり、監物に爆弾を手渡す際には、仕掛けるときにスイッチをオンにするように注意しており、右の者らが爆弾を仕掛けに出て行った後は、前記古堅方において、各人からの電話連絡を待ち、監物から中野駅前派出所は仕掛けにくい状況であるがもう一か所あてがあるという電話連絡を受けた際には、気をつけてやってくれと注意を与え、また、熊谷及び西巻からは既に仕掛け終わったという電話連絡を受けた。

これらの事実に、自分は本件計画全体の指揮をとった旨の被告人の捜査段階における供述を加えて考察すると、被告人は、判示第四の二ないし四の実行行為を担当しなかったものの、熊谷及び菊池、西巻及び高橋、監物及び梶原との間でそれぞれ意思相通じたうえ、共同意思のもとに本件各犯行を実現したことは明らかであり、共同正犯としての刑責を免れないというべきである。

もっとも、前記第二の四でみたとおり、判示第四の一の(1)の爆弾については、これを仕掛ける方法の点において謀議の内容と実行担当者が現に実行したところとの間に齟齬があるのであるが、この齟齬は、同一構成要件内の具体的事実の錯誤に過ぎないのであるから、被告人に対し共謀共同正犯としての責任を問うことの妨げとなるものではない。また、第四の一の(3)及び(4)の爆弾を仕掛ける対象については、同じく前記第二の四でみたとおり、被告人は、実行担当者が状況によっては当初予定されたところ以外の警察施設に爆弾を仕掛けることもあると予想していたのであるから、実行担当者が対象として選んだ警察施設は、被告人の予測の範囲内、すなわち共謀の範囲内にあったということができる。

三  判示第五の事実について

《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。

被告人は、昭和四六年六月ころ、熊谷から仙台市の国見にある米軍の通信所を爆破したいという話を聞いていたところ、同年一〇月初旬ころ、前記高橋方において判示第三の犯行について謀議していた際、再び熊谷から同通信所の爆破を行いたいと言われたことから、これを将来の計画の一つとして考えるようになり、更に、同月中旬ころ、前記亀川方において判示第四の犯行について謀議していた折にも、熊谷から同通信所の爆破が提案されたため、とりあえず下見に行って写真をとってくることとし、被告人の人選により熊谷、監物、高橋及び越後が行くことに決まった。そこで、被告人は、栗橋からカメラを借りてこれを高橋に渡し、同月下旬、熊谷ら四名が下見に行って、同通信所を撮影した。四人が戻って来ると、被告人は、フィルムの現像を栗橋に頼み、同年一一月上旬ころ、熊谷、西巻、監物、高橋ら数名と共に前記亀川方に集まって、写真を見ながら検討した結果、同通信所爆破の実行に踏み切ることとし、計画の細目の策定を熊谷及び監物に委ねた。その後、被告人は、右両名と随時計画内容について協議し、その過程で、熊谷、監物及び梶原を実行担当者とし、鎌田克己及び西山に現地における自動車の運転をさせることとし、同月二一日夜に爆弾を仕掛けて、翌朝これを爆発させることと決めた。このような協議をする一方で、被告人は栗橋に対し、熊谷らが野宿するために使うキャンプ用具を貸してくれるように頼み、これを用意できなかった栗橋からその代わりとして現金を受け取り、これを熊谷らに渡した。その後、同月中旬ころ、新潟県の西山の実家において、被告人、熊谷、西巻、鎌田克己、監物、高橋、西山、梶原らが合宿を行った際、被告人が同通信所を爆破することの意義について述べ、熊谷及び監物が計画の具体的内容を説明するなどし、その結果、右計画に従って同通信所を爆破することが確認された。合宿後東京に戻ってからも、被告人は、熊谷や監物から計画の細部について相談を受けたり、秋田県、新潟県にいる鎌田克己や西山に電話で連絡したりして、同通信所爆破の準備を続けた。そして、判示のとおり、熊谷、監物及び梶原が同月二一日夜右計画を実行した。

以上の事実に、自分はこの計画の全体的な指揮者であった旨の被告人の捜査段階における供述を加えて考察すると、被告人は、実行行為を担当しなかったものの、熊谷、鎌田克己、監物、高橋及び梶原との間で謀議を遂げたうえ、共同意思のもとに本件犯行を実現したことが明らかである。従って、被告人の行為は、幇助犯の域にとどまるものではなく、共同正犯を構成するものといわなければならない。

(法令の適用)

被告人の判示第一、第二の一、第三の二、第四の一、第六の一の所為はいずれも刑法六〇条、爆発物取締罰則三条に、判示第二の二、第四の二の1、2、三、四、第五の所為はいずれも刑法六〇条、同罰則一条に、判示第三の一の所為は刑法六〇条、二三五条に、判示第六の二の所為のうち、各殺人未遂の点はいずれも同法六〇条、二〇三条、一九九条に、爆発物使用の点は同法六〇条、同罰則一条にそれぞれ該当するところ、判示第六の二は一個の行為が八個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として最も一重い爆発物使用の罪の刑で処断することとし、所定刑中、判示第一、第二の一、第三の二、第四の一、第六の一の罪につきいずれも懲役刑を、判示第二の二、第四の二の1、2、三、四、第五の罪につきいずれも有期懲役刑を、判示第六の二の罪につき無期懲役刑をそれぞれ選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四六条二項により判示第六の二の罪の刑で処断し他の刑を科さないこととして、被告人を無期懲役に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中八〇〇日を右刑に算入し、訴訟費用は、第三回公判期日に証人宮澤宗平、同原田祥二に支給した分及び昭和五五年一二月二六日に証人千葉紀千郎に支給した分を除き、刑事訴訟法一八一条一項本文によりこれを被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、武装闘争を先鋭化することにより暴力革命の先馳的状況を作り出そうとした被告人が、自らをリーダーとするいわゆる鎌田グループの仲間と共に、連続的に敢行した爆発物の製造・使用等の事犯である。すなわち、被告人は、まず、武装闘争を唱道する赤軍派により黄河作戦で警察官らを殺傷するため用いられるものであることを知りながら、ダイナマイトを充填した手投げ式の鉄パイプ爆弾二個を製造し、続いて、三回にわたり、ダイナマイトを充填した鉄パイプ爆弾等の時限式爆弾合計六個を製造しこれらを都内六か所の警察施設に仕掛け、爆発前に警察官によって断線されたもの一個を除き、その余をことごとく爆発させ、とりわけ、追分派出所には警察官らに対する未必的殺意をもって強力な爆弾を仕掛け、その爆発の結果、警察官、通行人ら合計七名に瀕死の重傷を含む傷害を負わせ、更にこれらの犯行の間、仙台市にある米軍の通信施設にもダイナマイトを用いた時限式爆弾を仕掛け、その爆発により通信機能を一時とだえさせたほか、右のような爆弾闘争を継続するために、秋田市にある火薬庫からダイナマイト二二五本を窃取してこれを所持したというものである。

被告人らが製造・使用した爆弾は、いずれも強烈な破壊力を有するものであるうえ、古堅方で製造したものは、手投げ式爆弾で、警察官らの殺傷を目的としたものであり、その余はすべて時限式爆弾で、爆発時の状況を正確には把握できないものであるが故に無差別的に被害を及ぼしかねない危険なものである。被告人らは、これらの時限式爆弾を、米軍の通信施設に仕掛けたものを除いて全部、市街地にある警察施設に仕掛け、殊に追分派出所の場合には、わざわざクリスマス・イヴの夕方新宿伊勢丹前という混雑の予想される場所、時間帯を選んで仕掛けており、いずれの場合も人の殺傷という事態の起こり得ることを承知のうえで犯行に及んだのであって、自己の主義主張を遂げるためには手段を選ばず、法秩序と人間性を全く無視した反社会性の極めて強い卑劣な行為と評すべきである。被告人としては、追分派出所の関係では、新聞社に予告電話をかけ、その他の警察施設の関係では、爆発時刻を人通りの少なくなる深夜にセットしたというものの、その程度の措置で人が殺傷される可能性が解消されるものではなく、現に、追分派出所に仕掛けた爆弾は、その爆発により警察官一名に対し左足切断、左第二ないし第五指切断、右眼剔出という重篤な被害を与えたばかりでなく、たまたま通りかかった市民六名に対してもかなりの傷害を負わせたのである。また、他の警察施設や米軍の通信所に仕掛けた爆弾についても、その爆発により幸い人身の被害は生じなかったものの、ねらわれた施設のみならず周辺の商店等にも多大な財産的損害を与えた。被告人らはこのように危険で隠湿な犯行を爆弾事件の多発する最中に何回にもわたり次々と行ったのであり、それが社会に与えた恐怖と衝撃は測り知れないものがある。

本件は、また、鎌田グループという集団が周到な謀議を重ね、各人の役割分担を決め、下見をしたうえで犯行に及んだという組織的、計画的犯行である。右グループは、被告人の供述するとおり「やる気のある者の集まり」であって、厳しい規律によって結びつけられていた組織ではなかったが、被告人は、リーダーとしてこれを統率し、いずれの犯行においても、計画から実行段階に至るまで中心的指導的役割を果たしたものである。更に、被告人には、右のとおり重大な結果を発生させながら、現在に至るも真摯な反省の態度はみられない。

以上に加え、本件のように爆発物を製造・使用して人身に被害を与える犯罪は厳しく糾弾されるべきであることや、既に判決を受けた共犯者らとの刑の均衡をも併せ考えると、被告人が捜査段階においては本件各犯行をほぼ全面的に認め、公判段階においても外形的事実は大筋においてこれを認めており、長い逃亡生活の中でそれなりに精神的苦痛を味わってきたことなどの諸事情を斟酌しても、被告人に対しては無期懲役刑をもって臨むのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤文哉 裁判官 山室惠 岡部信也)

〈以下省略〉

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